やわらかいうちに、打たないで。
幼少期のトラウマの後遺症として、大人になってから頭痛が引き起こされる可能性があることが発表されました。
今回の研究は、すでに出されているエビデンスをメタ分析(複数の研究を総合的に解析)したもの。それによると、幼少期にトラウマとなるような出来事があった人は、そうでない人と比べて、頭痛に悩まされる可能性が顕著に高いことがわかったのです。
子ども時代のトラウマはいろんなリスクがある
子ども時代のトラウマというのは、悲しいけれど珍しいものではありません。米国疾病予防管理センターによると、アメリカでは、子どもの少なくとも7人に1人が過去1年間に虐待やネグレクトを経験しているそうです。
さらに成人の約64%が、幼少期に暴力を目撃したり、家族の誰かを自殺で亡くしたりするなど、トラウマになりうる出来事を少なくとも1回は経験していると報告されています。
もちろん、そのトラウマが子どもたちの健康に直接的な影響を与えることもあります。しかしそれだけではなく、薬物依存や学習の遅れ、性感染症などの深刻なリスクが高まることも知られています。
そこである研究チームが、この健康リスクに頭痛が含まれているかどうかを調査。その研究結果が先日、神経学系の学術誌『Neurology』で発表されたのです。
頭痛とトラウマの関連性は未知の分野だった
ハーバード大学の公衆衛生大学院で医療政策研究に取り組み、今回の研究を執筆したキャサリン・クレアツォーラス氏は、
片頭痛などの慢性頭痛(一次性頭痛)は世界的にも“障害の主要原因のひとつ”とされており、一方で小児期のトラウマを抱えている人も多いことから、関連性があるかどうかを調査したかった。
と、米Gizmodoに明かしています。
他の研究でも同様の結果が示されており、研究著者自身も「子ども時代のトラウマを抱えている」と訴える患者が多いという頭痛専門クリニックを訪れたことがあるといいます。
ただ、これまでは頭痛と子ども時代のトラウマを結びつけるデータが体系的に収集されたことはなかったので、まだまだ研究が進んでいない分野だったようです。
因果関係とは言えないけど、相関関係は明らか
クレアツォーラス氏とそのチームは、19カ国の15万4,739名が参加した関連研究28件のデータを分析。その結果、全体の31%の人が幼少期に少なくとも1回はトラウマとなるような出来事があったと報告し、16%の人が一次性頭痛(他に原因となる基礎疾患がない頭痛)だと診断されていました。
研究をまとめると、子ども時代にトラウマ歴のある人は、そうでない人に比べて、後に一次性頭痛と診断される可能性が48%も高かったのです。
さらに研究チームは、トラウマの種類によって頭痛のリスクにどのような影響があるかも調べました。たとえば、虐待や暴力などの脅威トラウマでは頭痛発生率の46%増加に関連し、ネグレクトや親の死などの剥奪トラウマは頭痛発生率35%増加に関連することがわかりました。
この調査結果は、頭痛と幼少期のトラウマとの相関関係を示すだけで、直接的な因果関係を示すものではありません(ですから、あくまで「関連する」という言葉を使っています)。
しかし、この種のメタ分析としては最大規模の研究であり、トラウマ歴が長い人ほど頭痛を経験する頻度が高いというデータが得られたことは、因果関係が現実に存在することの根拠ではないかと研究チームは考えています(これを医学用語で「用量反応関係」と呼びます)。
他の疾患やリスクとの関連性も要調査
子ども時代のトラウマ的出来事を教えてください、というのはデリケートな問題なので、今回判明した関連性の、真の推定値はもっと高い可能性があります。
我々の調査結果は、あくまで控えめな推定値を反映しているのだと注意する必要があります。
とクレアツォーラス氏は語ります。
研究チームは、幼少期のトラウマが慢性疾患や自己免疫疾患など、他の健康問題のリスクにも影響を及ぼす可能性があるとして、今後も研究を続ける予定だそうです。
さらに、頭痛とトラウマの関連性についても、トラウマが発生した時期とそのリスクの関係など、他の側面も調査が必要だと述べています。
少しでも対処できるような治療法を
トラウマに対処し、関連(すると思われる)症状を軽減する治療法があることから、研究チームは「今後の研究によって頭痛に悩む人のケアを改善できれば」と期待しています。
たとえば、大人の一次性頭痛を治療に携わる神経科医やプライマリケア(心身を総合的に診る医療)の医師が、小児期のトラウマについて定期的にスクリーニングを行ない、トラウマと頭痛の関連について患者に情報提供することも有効だとクレア氏は提案しました。
また、神経内科と精神科や心療内科などの連携を強化し、複数のケアポイントから小児期のトラウマに対処することをおすすめします。