児相6割に警察官配置 設置自治体、虐待の対応強化で

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児童相談所(児相)を設置している全国の72自治体の約6割が、児相に現職警察官を配置していることが26日、産経新聞の調査で分かった。虐待疑いの通告が右肩上がりに増える中、児相では的確な危険度判断や警察との協力が重要になり、人事交流で連携を深めようとしている取り組みの実態が明らかになった。

平成30年度の児相の虐待対応件数は約16万件。警察が積極的に家庭に関わり、児相に通告するようになったことを背景に10年前の3・5倍以上に増え、過去最多を更新した。この間、虐待で死亡した子供は半数近くに減少。児相の権限も強化され、両組織の家庭介入は効果を上げてきたが、それでも幼い子供が犠牲となる事件は後を絶たない。

今年4月には改正児童虐待防止法が施行され、「しつけ」と称して体罰を行うことが禁止。親が暴力を正当化するケースは多いが、社会として虐待を許さない姿勢がより明確化された。さらに、東京都大田区で6月、梯稀華(かけはし・のあ)ちゃん(3)を放置し死亡させたとして逮捕された母親の沙希容疑者(24)は、自身も幼少期に親から虐待を受けていたとされ、世代間の「連鎖」を絶つことも喫緊の課題となっている。

一方、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた影響で、児童虐待が増加するとの懸念も出ている。

休校が続いた影響で、虐待の兆候をつかむ学校の目がなくなり、児相への通告件数が減少したところもあった。感染リスクを理由に児相の訪問や面談を断る家庭も相次いだとされ、警察など他機関との連携により、迅速かつ的確に対応する必要性が高まっている。

児相は今年度初めの時点で、都道府県や政令市など全国72自治体が計219カ所設置。産経新聞の調査では、このうち41自治体が計67人の現職警察官を児相に配置しており、1年前から10自治体増加したことが分かった。

児相に配置された警察官は、警察との連絡調整のほか、警察目線でリスク判断の意見を述べたり、現場で子供の安全確認や暴力的な親への対応に当たったりすることが多い。愛媛県では児相の各事案について、警察と協力して対処すべきかどうかを児童福祉司と警察官らが選別する「トリアージ」を目指している。

調査では、児相が全虐待事案の対応概要を警察に提供する「全件共有」も27自治体で行われていることも判明。うち10自治体は結果として虐待ではなかった通告も含めて共有している。

虐待対策の国の検討会に長年関わった松原康雄・明治学院大前学長(児童福祉論)は「組織間の連携を図るにはOBではなく現職警察官がいる意味は大きい」と評価。その上で「児相が不慣れだった強制介入のノウハウを学べることは確かだが、ほかの有効な活用方法は試行錯誤の段階だ。経験を蓄積してマニュアルに残し、人が替わっても機能する仕組みを作っていってほしい」と話している。

児童相談所への警察官配置

平成22年に大阪市西区で母親が2児の育児を放棄し、餓死させた事件をきっかけに、同市が全国に先駆けて同年10月、大阪府警の現職警察官2人を児相に配置。その後、厚生労働省も全国に実施を促している。同市での配置は「連携が深まった」などとして29年3月で終了したが、現在は警察OB7人が市児相で勤務。厚労省によると、OBは昨年4月時点で52自治体に216人配置されている。

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