WHOのゲーム障害定義は「時期尚早」 専門家らが懸念

アレックス・テリエン ヘルス担当記者 BBCニュース

People playing computer

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ゲームへの依存を精神疾患の一種とした世界保健機関(WHO)の判断は「時期尚早」で「道徳的パニック」だと、専門家らが懸念を表明している。

WHOは先に、最新の国際疾病分類で新たに「ゲーム障害(Gaming Disorder)」を定義した。

しかし、心理生物学の講師を務めるピーター・エッチェルズ博士は、今回の動きは大半の人々にとって無害な行動を「病気として認める」リスクがあると指摘する。

WHOは、定義の前に入手可能な証拠を参照したとしている。また、「様々な分野や地域の専門家の総意」が反映されており、ゲームを「生活の他の興味より優先させる」ほど重篤な行動を中毒と定義したと述べている。

危険な坂道

ロンドンのサイエンス・メディア・センターでの会合で専門家らは、今回の決定は善意の元に行われているものの、どのようにビデオゲームへの依存を診断するかという良質な科学的根拠が欠けていると述べた。

バース・スパ大学のエッチェルズ博士は「危険な坂道を転がり落ちる可能性がある」と話した。

「これは趣味を病気とみなしたということ。次は何が来る? 日焼け中毒やダンス中毒、運動中毒に関する研究はあるが、これらを国際疾病分類に含めようという議論はない」

「こうした方針が道徳的なパニックに基づいてはならないと思う。今まさにそれが起こっている気がする」

エッチェルズ博士は、ゲーム中毒になっている人の割合は、。全体の0.5%以下から50%近くまでのレンジで推測されると話す。つまり、単にゲームを楽しんでいる人と本当に問題を抱えている人の区別を間違える危険性があるということだ。

「我々が直面しているのは過剰な診断であり、多くの人々にとって無害な振る舞いを病気を決めつける行為だ」

Two girls on mobile phones in bed

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専門家らはこの以外にも、いくつかの研究が示しているスマートフォンやタブレットを含む「スクリーン」を見る時間が子どもや若年層に有害だという主張にも疑問を投げかけている。

先には英下院の科学技術委員会がこの問題について調査すると発表し、話題となった。

エッチェルズ博士とオックスフォード大学・オックスフォード・インターネット研究所のアンディ・プルジビルスキ准教授は、こうした研究では通常、スクリーン使用と健康の間に弱い関係しか示せていないと話す。

プルジビルスキ准教授は、こうした研究では大抵、子どもの健康の99%が、スクリーンの使用時間とは関係のない要素に左右されていると語る。

また、スクリーンの使用時間は家庭で起きる他の問題とも関連している可能性があるという。

「最新の良質な研究では、スクリーンの長時間使ったことでの若者への影響はほとんどないということが示されている」

A boy with a smartphone

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画像説明, デイビー博士は、大人も子どもも夜間には寝室にスマートフォンやその他のスクリーンを持ち込まない方がいいとアドバイスした

王立小児科・小児保健協会のマックス・デイビー博士は、長時間のスクリーン使用は、睡眠時間の短縮と肥満につながるとしている。

しかし同協会は最新のガイダンスで、スクリーン使用時間の短縮は求めないようだ。

米国小児科学会では、子どもたちのスクリーン使用時間を1日1~2時間にするよう求めている。

デイビー博士は、「この方針は証拠に基づいているものではない。我々の興味を引いているのは、スクリーンでどんなコンテンツをどんな文脈で見ているかだ」

同博士は今できるアドバイスとして、夜間には寝室にスマートフォンやその他の端末を持ち込まないよう付け加えた。

エッチェルズ博士も、「我々が持っている最もしっかりした証拠は、特に子どもたちの健康にとって、ある程度の端末使用、ある程度のゲームは、それらが全くないよりも良いということだ」

WHOは、ゲーム障害を精神疾患として定義したことで、「保健の専門家がこの障害の発達リスク、そして関連の予防や治療法により注意を向けることになる」としている。

動画説明, ゲームを「週に20~30時間」 ゲーム依存の実態とは?