塩野義、安定成長へ布石 大型抗うつ剤候補の権利取得
塩野義製薬は14日、米社が開発中の新型抗うつ剤の開発・販売権を取得したと発表した。開発・販売権の取得のみで投じた金額は100億円。巨額資金を投じた背景には今回の新薬がうつ病治療を画期的に変えるという可能性を秘めているのはもちろん、現在の主力抗うつ剤の特許が切れており、後継薬を取得して収益を安定させたい事情があった。
塩野義が米製薬スタートアップのセージ・セラピューティクス社と結んだ契約内容は日本や台湾、韓国での開発・販売権を取得するもの。塩野義の手代木功社長はかねて「2020年度以降に発売する新薬のために200億円を用意した」(5月の決算会見)と強調していたが、今回の契約取得のみで投資枠の半分を早くも消化した格好だ。このほか塩野義は開発に応じ約530億円や、販売額の約2割を米社に支払う。
塩野義が巨額契約に踏み切ったのは今回の新薬が「現在の抗うつ剤市場にはない仕組み」(塩野義)を持っているため。通常の抗うつ剤は投薬から効果が出るまで2~4週間かかるが、新薬は翌朝から効果が見込める。実際、米食品医薬品局(FDA)は今回の新薬を「ブレークスルー・セラピー(画期的治療薬)」として既に指定しており、早急な開発を支援している。
FDAの画期的治療薬制度は過去に小野薬品工業のがん免疫薬「オプジーボ」も適用されており、塩野義にとって収益化までの期間短縮はもちろん、数百億円の大型商品に育つ可能性は魅力的に映った。
折しも、塩野義は従来の同社の主力抗うつ剤で、米イーライ・リリーから取得した「サインバルタ」の特許が切れていた。サインバルタは国内のうつ病治療の定番品で、慢性腰痛の疼痛(とうつう)治療用途も含めて年間230億円も稼ぐ。だが、21年には安価な後発薬が登場する見通しで、早急に後継薬を確保する必要があった。
製薬企業は絶えず中期的に会社を支える新薬の開発・発売を重ねる必要がある。塩野義はインフルエンザなど「感染症」と並んで、うつ病など「疼痛・神経」の二つを注力領域と定めている。感染症領域では投薬が1度で済むインフルエンザ薬「ゾフルーザ」の発売にこぎつけた。もう一つの「疼痛・神経」領域も今回の新薬の契約取得で手を打った格好だ。
塩野義は国内製薬大手の中で規模は小さいが、営業利益率は3割台。2割弱にとどまる他社よりも高く稼ぐ力は群を抜く。「(薬で)患者が病気を忘れられることは非常に重要だ」という手代木社長。二つの領域で布石を打ち、安定成長への地固めを着々と進めている。(宮住達朗)