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他人のうんちで病気を治す…驚きの治療法に注目 大腸に便移植、うつ病やアトピーに効果も

腸内フローラ<4完>

 他人のうんちを大腸に入れて病気を治す。びっくりするような治療法が既に動きだしている。

 心身の健康に深く関与することが解明されつつある腸内フローラ(腸内細菌叢(そう))。善玉菌優勢のバランスの良い状態ならば健康維持に寄与する半面、それが崩れると病気や不調を招く。

 細菌叢を形成する多様な腸内細菌は、うんちにも混じり、水分を除けば3分の1を占めるという。健常な人のうんちから取り出した腸内細菌を患者の大腸に注入し、細菌叢のバランスを取り戻そうというのが腸内フローラ移植(糞(ふん)便微生物移植=便移植)だ。

 腸の疾患だけでなく糖尿病やがん、動脈硬化、花粉症など細菌叢との関連が指摘されている疾病の治療法としても注目され始めた。

 米国では既に難治性の腸管感染症の有効な治療法として政府機関が提示。日本では潰瘍性大腸炎の治療に生かす順天堂大などいくつかの大学が2014年ごろから臨床試験に入った。

   ◇    ◇

 「以前のように理由もなくふさぎ込むとか感情が突然爆発するようなことがなくなり、自分の中で何かが変わった気がしました」。うつ病の治療で便移植を体験した田中千尋さん(27)=大阪市=は移植後の自身の感覚を思い出す。

 留学をきっかけにストレスを抱え込むようになり、疲労感に襲われ、取るに足りない一言に激怒し、予定外の出来事に混乱した。仕事もやめて心療内科に通い、母親の会社を手伝っていた17年6月、便移植に出合った。

 移植を担当したのは「腸内フローラ移植臨床研究会」(大阪市)の設立メンバーの開業医だ。研究会は17年に一般財団法人として発足。大学より簡便な便移植の臨床研究を目的にしている。発起人の医師、田中善(よしむ)さん(65)は「実証例を積み上げ、治療法として確立させたい。そのため多くの医師が関わる必要がある」と説明する。

 目指すのは「患者の負担がより少ない」かん腸方式。現在の一般的な方法が、便を生理食塩水に溶かし、ろ過した菌液を内視鏡で大腸に注入するのに対して、菌が生着しやすいように特殊な液に便を溶かし、ゴム製の管で注入する。菌液は付属の研究所が、患者の症状に合わせてドナー登録者約80人の便から選択し、ブレンドするという。

 これまでの症例は約800。潰瘍性大腸炎をはじめアトピー性皮膚炎、精神疾患などにも効果を上げているという。ただ、今のところ民間療法の位置づけのため、費用の高さなど課題も多く、関係学会の審査を経るなど通常医療としての認定に向けて手続きを進める考えだ。

 腸内フローラと食を巡る研究では、食べた油が直接、腸内細菌と関わるケースがあることも分かってきた。食事から摂取すべき必須脂肪酸の一つ、〓(〓はアルファ)-リノレン酸が、豊富なあまに油を取ると、最終的にアレルギーの抑制に関わる成分に変わる。これらは体内の反応だけでなく腸内細菌の代謝が作用する。国立研究開発法人「医薬基盤・健康・栄養研究所」(大阪府)の研究グループが明らかにした。

   ◇    ◇

 赤ちゃんは生まれるとき、産道を通ることで母親から細菌を受け継ぐという。腸内細菌の形成はここから始まる。行き過ぎた抗菌習慣や抗生物質の乱用が腸内フローラの多様性を減少させ、疾病を招いているとの専門家の指摘もある。

 便移植は将来、例えば緊張しないためとか、やせるため、腸内細菌入りタブレットを飲むような形にまで進化するかもしれない。

 それでも食物繊維を含む食の大切さは変わらない。「便移植を受ける患者にも、まず食生活の診断と指導が欠かせない」と田中善医師。うつの症状に悩むことが減った田中千尋さんも「せっかくもらった菌を大事にしたい」と食事に気を付ける。「菌が何を食べてと教えてくれるんです」

 腸内細菌との「共生」は私たちの健康にとって欠かせない。

 =おわり

=2018/04/04付 西日本新聞朝刊=

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