ほとんどの人が、退職した後のことなどまったく想像もできないほど大変な時期を過ごしており、ましてや早期リタイアなんて考えたこともないでしょう。にも関わらず、多くの人が40歳かそれより前に仕事を辞めたり、経済的な独立を達成しています。30代で隠居した人のように1日中ビーチでカクテルでもすするなんて、信じられないほど素晴らしいような気がしますが、早期リタイアには欠点もあります。

まず私は、金融系ブログ「Mr. Money Mustache」で早期リタイアのコンセプトについて読みました。ブロガーから個人金融に関するプロになったPeter Adneyは、莫大な貯蓄率と極端な倹約のお陰で、何とか30代までにリタイアしました。Adneyは、ほとんどの人は同じことをする余裕があると主張します。しかし、自分の状況を制御することができず、外部の圧力を必要以上に責めているのだと言います。個人金融と経済に関して執筆している人間として、私はこの視点はあまりにも単純化し過ぎだと思いますが、「Done By Forty」のブロガーBrianと同じように、多くの人が同じように早期リタイアをずっと夢見ています。

Brianは40代までにリタイアするという目標を掲げており、早期リタイアはどのようなものなのかという全体像を探求しています。

早期リタイアや経済面での自立について書いている私たちブロガーは、友だちや家族との時間が増える、見返りを必要とするプレッシャーのない活動を追求する自由、経費を無期限に維持できる蓄えがあるという安全性など、目標の利点の概要を説明するいい仕事をしていると思います。しかし、早期リタイアのような人生が一変する本質的なリスクを追求する、嫌な仕事でもあります。

Brianは最近のポストで、頭の回転が鈍くなっているかもしれないと、早期リタイアのリスクについて書いていました。

リタイアと認知力低下の関係性

リタイアと認知力低下の関連性を裏付ける研究は、実際は少ししかありません。もっとも注目すべきは「Health and Retirement Study」の研究で、研究者は“精神的なリタイア”と呼んでおり、若くしてリタイアするほど辛いようです。

ニューヨーク・タイムズ紙では、「the Journal of Economic Perspectives」に掲載されていた研究を引用して、このようにレポートしていました。

研究者は、60〜64歳まで働いている人の割合と記憶力テストの成績の、直接的な関連性を発見しました。60代前半でテストを受けても、長く働いている人ほど記憶力が良かったのです。

その研究では、被験者に一連の言葉を覚えてもらう記憶力テストを使っており、早期リタイアを勧めている国も含め、さまざまな国出身の人にテストをしました。遅くリタイアする国の被験者よりも、早期リタイアした人の方が驚くほど成績が悪いことがわかりました。

Brianは「記憶力テストが表しているのは、ほんの氷山の一角で、もっと大きな精神力の低下を表しているに過ぎないと感じています」とブログに書いています。もちろん、相関関係は必ずしも因果関係ということではなく、記憶力テストは認知力を測るひとつの方法に過ぎません。他の科学者もそのことを指摘しています。研究者はニューヨーク・タイムズ紙にこのように言っています。

確かに説得力はありますが、完璧ではありません。最初の切り口に過ぎないので、もっと追求しなければなりません。

つまり、精神的リタイアの研究の著者は、因果関係は実際にあるとかなり確信しているようです。早期リタイアによって認知力が低下する理由もいくつか指摘しています。

精神的リタイアはどうやって起こるのか?

これは「やるか、やらないか」というような問題なのかもしれません。精神的な刺激を早く手放すと、60歳までにそれだけ認知力が落ちます。若い方が学ぶのは簡単なので、学ぶことをやめると、認知力を向上させる機会を失うことになります。つまり、記憶力のような認知力を維持したいのであれば、活動的であり続けた方がいいということです。Brianはこのように言います。

早期リタイアの可能性が高いと、労働者のやる気がなくなるかもしれません。50歳の人が、あと5年で職場を去るとわかっていたら、難しいプロジェクトをやったり、新しいスキルを身に着けたりしませんよね。

つまり、仕事を辞める前でも、精神的リタイアの影響が出るかもしれないということです。この研究が正しければ、30代や40代でリタイアする場合、その前から認知力は低下し始めるかもしれないということです。Brianはこうも言っています。

ブログに書いて以来、自分の早期リタイアについてかなり違う考えをするようになりました。研究では、皮肉にも、そして少し悲しいことに、早期リタイアの計画中も、何かしら働き続けた方がいいと指摘しているように思えます。しかし、認知力低下のリスクはあまりにも大きいです。どれくらいこのリスクがあるのかという確かな研究がなければ、最善の選択は何かしらの仕事を続ける、ということになると思います。

仕事に文句は言うものの、仕事には頭をシャープに保ってくれるという良い一面もあるようです。当然ながら、答えは白か黒かのように、どちらか一方ではありません。例えば、すべての仕事が精神的に刺激を与えてくれるわけでもないということです。死ぬまで働きつづけなければ、認知力を保てないのだとしたら、それはあまりにも気が滅入る答えです。

早期リタイアしても認知力を低下させないために

ただ、これは早期リタイアだけの問題ではありません。誰にでも何かしらの影響があることです。カリフォルニア大学リバーサイド校の心理学教授Rachel Wuは、学び方のせいで大人になるにつれて誰もが認知力の低下に悩まされると主張しています。

子どもの頃は、幅広く学びなさいと言われます。一度に複数のスキルを身に着けたり、失敗しても許されたり、学ぶことは心を開くことでもありました。大人になると、具体的に学ぶようになります。1つの仕事、1つの役割を選ぶことを求められ、失敗をしたら職を失うというような深刻な結果が待っています。Wuはこのように言っています。

幼少期から人生を見渡してみると、幅広く学ばなくなることが認知力低下と関連があるように思われます。しかし、幼少期と同じように、大人も幅広く学ぶようになったら、年齢を重ねても、現在の限界だと思われているものを超えて、認知力が伸びるかもしれません。

つまり、リタイアしているかどうかに関係なく、複数のスキルを学び、コンフォートゾーンを出て、失敗を受け入れることで頭脳明晰でいられるのです。Brianはこのように言っています。

ブログを始めた時、私は自分の人生にもっと多様な活動を取り入れようと思っていました。ボードゲームや昼寝など、自分が好きなことをする時間を、1日のうちにもっと均等に広げようとしていました。しかし、そのことを考えれば考えるほど、楽しみと休息に集中し過ぎて、ダラダラとした生活になるように思えました。今日の目的は、リタイア中に意義のあることをすることだったのですが、皮肉なことに失敗でした。

この問題を解決するには、リタイア中に働かないようにして、もっと刺激のある活動をすることのように思えます。

早期リタイアする人は、頭脳明晰で認知力を保っていたいのであれば、従来の「ビーチでカクテルをすする」という典型的なリタイアの姿を考え直す必要があるでしょう。ブログ「Mr. Money Mustache」の著者を含め、多くの早期リタイア者は、代わりに「経済的な自立」という言葉をよく使っています。

Brianは「正直に言って、まだそんな人生を送るかどうかはっきりとはわかりません。従来のように65歳まで働きたくないことはわかっていますが、それが代わりに他のことをするというのと同じではないことはわかりました」。

Kristin Wong(原文/訳:的野裕子)