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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

精神科病院には、患者の権利を守る第三者が必要

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 いろいろな原因でメンタルをやられる人、精神的な障害に苦しむ人が増えました。厚生労働省「患者調査」によると、「精神及び行動の障害」に分類される病気・障害の総患者数は2014年で318万人。1999年の182万人に比べ、1.7倍になりました。

 しかし日本の精神科医療、とくに入院医療には大きな問題がいくつもあります。中でも重要なのは、患者の人権です。人身の自由を奪う強制入院がかなりあるし、本人の同意に基づく任意入院でも、保護室などに閉じこめられる隔離や身体拘束、電話・面会・外出の制限が少なくありません。職員から暴力・暴言を受ける場合もあります。

 ところが、患者の味方になって権利を守る人を派遣・配置する制度がない。これは精神科医療の最大の欠陥だと思います。国会審議中の精神保健福祉法改正案について、政府は「監視ではなく、患者への支援を強化する」と強調していますが、それなら権利擁護の仕組みを本気で導入するべきではないでしょうか。

光愛病院(大阪)の人権相談員

精神科病院には、患者の権利を守る第三者が必要

光愛病院の閉鎖病棟で患者と話をする中野豊子さん(左)

 大阪府高槻市に 光愛(こうあい) 病院という民間の精神科病院があります。この病院は2002年12月から、外部の精神保健福祉士に依頼して月2回、人権相談の活動をしてもらっています。精神科病院が自主的に、第三者による権利擁護の仕組みを作っているのは、ほとんど例がないでしょう。

 人権相談員は、相談室で患者や家族の相談に応じるほか、マスターキーを持って各病棟を回り、閉鎖病棟や保護室にいる人を含めて患者の話を聞きます。病棟や外来に置かれた意見箱を開け、内容を確認します。月1回は外部委員による病院の第三者委員会で、活動状況や浮かんだ課題を伝えます。

 中野豊子さん(68)は、今年4月に後任に交代するまで9年間、人権相談員を務め、年間100件前後の相談を受けました。

 「お風呂に毎日入りたい」「携帯電話を持ちたい」「身体拘束されてオムツをはかされ、看護師を呼んでもなかなか来てもらえず、つらかった」「夫から離婚と言われた」

 病状によるつらさから生活面まで、いろいろな相談が舞い込み、必要に応じて1時間でも2時間でも話を聞きます。秘密は守り、何らかの対応をすべき内容なら個別にスタッフや関係先につないだり、病院に問題提起したりします。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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