おばあちゃん女優、認知症ケアに一役 患者役を熱演
浜松医大(浜松市)の鈴木みずえ教授は、地元演劇サークルの「おばあちゃん女優」に認知症患者役を演じさせ、看護師らが対処する研修プログラムを作成した。模擬患者を起用した認知症ケアの研修は全国的にも珍しい取り組みといい、鈴木教授は「知識だけでなく、体験して学んだケアを現場で生かしてほしい」と話す。
「もう帰る」「点滴は痛い、いやだ」。ベッドで怒る患者役に看護師が優しく声を掛け、徐々に落ち着かせていく――。認知症の高齢患者が特に起こしやすい「せん妄」の状態だ。鈴木教授から演技のアドバイスを受けた患者役の女優が、迫真の演技を見せる。
鈴木教授によると、せん妄は意識障害の一つで、認知症と似た状態となったり、混乱状態に陥って点滴を引き抜いて暴れたりする場合もある。激しく暴れるときには体を拘束するケースも多かったが、患者の高齢化や尊厳の問題から全国の医療現場で個々人に即した対応が求められている。
参加者は終了後、患者役から助言をもらい改善点などを話し合う。これまでに2回、看護師らを対象に研修を開いたほか、学生の教育にも取り入れている。普段から演劇の練習をしている女優の演技に学生が思わずたじろぐこともあるという。
患者役を演じるのは浜松市の演劇サークル「おばあちゃん劇団 意図佃琶」のメンバー。主宰する小林宏彰さん(66)は「アドリブの力も身に付き、演技力が上がった」と手応えを語る。患者役の中津川すみ子さん(74)は「状況に合わせてせりふを考えるので、難しいところもあるけど、役立っていると思うとうれしい」と笑顔を見せた。
参加者からは「ゆっくり語りかけた方が患者は安心する」などの声が寄せられた。鈴木教授は「解決の糸口を研修で学んでもらい、少しずつでも身体拘束をなくしていきたい」と意気込んでいる。〔共同〕