佐藤記者の「新・精神医療ルネサンス」
医療・健康・介護のコラム
聖マリが新たに六つの臨床研究を中止へ
精神科医と複数の大学職員が、元患者の女性についた奇妙な
大学関係者もあきれるほどの「ひどさ」
問題となったのは、抗精神病薬2種類の認知機能改善度を比較する臨床研究。責任者の准教授は、研究に参加する患者に無作為に割り付けるべき薬を、自ら指定して女性に服用させていた。これでは、よく回復しそうな患者ばかりを、効果を得たい薬に集中的に割り振ることもできるので、公正な比較試験にならない。
過去の記事で指摘したこのような問題や、記事には書かなかったが、女性や私が大学と厚労省に指摘してきた数々の疑問点(問題発覚後、准教授が女性のカルテを何か所も書き換えたことなど)が、今回の調査でも同様に浮かび上がった。更に、同意を得ていない患者をこの研究に組み込んだり、他の研究に参加している患者のデータをこの研究でも使ったり、他の抗精神病薬などを併用している患者をこの研究に加えたりしたことも分かったという。解析方法もおかしかったようで、同大学関係者ですら「あまりにもひど過ぎて言葉が出ない」とあきれるほどだ。この研究に協力した女性以外の患者に対しては、大学は「今回の経緯を説明する文書を郵送し、誠意をもって対応したい」としている。
治療ガイドラインの参照論文も撤回へ
この研究は中止されたものの、一部データを用いて既に作成された論文がある。大学はこれを「撤回が妥当」と判断し、共著者らに理解を求める。この論文は、准教授が執筆者として加わった日本神経精神薬理学会の「統合失調症薬物治療ガイドライン」で、参考文献として紹介されており、撤回の影響は学外にも飛び火しそうだ。更に大学は、神経精神科の医師が近年行った他の21の臨床研究についても調査し、このうち六つの臨床研究について「薬の割り付けの問題が見つかった」などとして中止にする方針を固めた。准教授以外の医師が責任者を務めた研究もあり、今後も調査を進めるという。
大学は臨床研究の適正管理を約束
准教授は、研究で扱った抗精神病薬を販売する製薬会社から、講演料などで多額の収入を得ていた。大学は「講演料などに試験結果が影響を受けたという明らかな証拠は見つからなかった」としている。ただし、「状況から見て、疑われても仕方がない」として、これまで自己申告にとどめていた利益相反の管理を、「1円でも収入があれば届け出をするように改める」としている。
また、臨床研究のデータは学内のデータセンターで一元管理するようにし、新たに臨床研究支援センターを設けて研究の透明性を高めることも検討するという。准教授らの処分は「今年度中には」としている。
ただし、大学は結果的に「様々な問題が研究から見つかったが、
女性は今、別の複数の医師に「統合失調症ではない」「精神疾患でもない」と診断され、薬をやめてから健康を取り戻し、元気に働いている。だが、このおかしな臨床研究に善意で協力したがために、失った時間は戻らない。
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