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認知行動療法を生かす…考え方のくせ、思い込み修正

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「出来事」「感情」など書き出す

 社会に出ると、仕事や対人関係で悩みが増える。物事をネガティブに考えがちな人は、悩みもより深くなる。そんな時、 認知行動療法 の考え方を取り入れると、気分が少し前向きになるかもしれない。

認知行動療法を生かす…考え方のくせ、思い込み修正

カウンセリングを受けて職場に復帰した職員と話し合う中島さん

 福岡県在住の男性(28)は公務員になって5年目。現在の職場では、分からないことがあれば上司に相談できるが、最初の職場では「自分で解決しなくては」と問題を抱え込んだ。気晴らしもうまくできず、不安な気持ちのまま、ストレスを募らせていった。

 「出勤しようと準備を始めても、服を着替えると胸が苦しくなる。靴を履いて玄関から一歩出ようとするのが、屋上から飛び降りるような感じで怖かった」と振り返る。1年目が終わる頃に休職。いったん復職するが、数か月後、再び職場に行けなくなった。

 2014年12月、職場のカウンセラーとして男性から相談を受けた中島美鈴さんは、認知行動療法を専門とする臨床心理士。男性のようなケースについて、「ストレスの原因を分析し、対処法を身につけないと、休職を繰り返す」と話す。

 中島さんの目に映った男性は、責任感が強く、仕事に熱心なタイプ。能力もあったが、「失敗したら全部自分のせい」「人に頼るべきではない」という考えにとらわれすぎていた。復職しても、休職中に同僚に迷惑をかけたことを負い目に感じ、相談や質問ができない悪循環に陥っていた。

 認知行動療法の考え方で言うと、他人に認めてもらうことで自らの価値を感じる「承認依存」、問題が起きると責任は自分にあると思う「自己非難」、ミスをするとひどく動揺する「完璧主義」の度合いが、通常より強い傾向がみられた。

 そんなに自分を責めなくても、と思えるが、本人は気付かない。そんな時に効果的なのは、自分が不安な気持ちになった「出来事」、その時に浮かんだ「考え」、それがもたらした「感情」の計三つを「書き出す」ことだ。

 男性は、仕事相手への過度な気遣いを出来事に選んだ。「相手が話していることが分からない。自分は力不足だ」「話を振られたらどうしよう」「今日の話をうまく報告書にまとめられない」と考えた。「みじめ」「落ち着かない」「恐怖」という感情が芽生えた。

 次に、同じ場面で同僚や友人だったら、どう考えるかを書いてもらった。「経験が浅いから仕方ない」「先輩に相談すれば良い」「新しいことを知るチャンス」などが浮かんだ。

 中島さんは「自分の考え方が絶対ではない、と気付くことが大切。物事を否定的に考える人は、それだけで気が楽になる」と効用を語る。

 カウンセラーに相談することに抵抗感がある人も、このように自分の考えを書き出すだけなら、簡単にできる。認知行動療法は10年度に、うつ病で保険適用になって以降、専門書だけでなく、一般向けに分かりやすく書かれた本が数多く登場している。

 中島さんは「認知行動療法の知識を生かせば、自分の考え方のくせや思い込みに気付き、修正するのに役立つ。生活の中でぜひ試してほしい」と話している。

  認知行動療法  物事の受け止め方や行動パターンを見直すことで、気分の改善を図るカウンセリングの一種。うつや不安、ギャンブル依存などの治療に用いられている。中島さんの著書「悩み・不安・怒りを小さくするレッスン 『認知行動療法』入門」(光文社)が分かりやすい。(赤津良太)

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