泌尿器科医・小堀善友の新オトコのコト
妊娠・育児・性の悩み
性同一性障害…「女性」の精子どうなる?
みなさまは、「性別違和症候群」、「性同一性障害」という言葉をご存じですか?
簡単に申し上げると、「心の性」、つまり「自覚している性と体の性が一致しない病気」のことです。
ホルモン療法と性別適合手術
性同一性障害の人たちは、治療としてホルモン療法をしたり、性別適合手術を受けたりすることがあります。
ホルモン療法とは、「MTF(Male to Female:体は男性、心は女性)」の人が、体を女性化するために女性ホルモンを使用したり、逆に「FTM(Female to Male:体は女性、心は男性)」の人が男性化するために男性ホルモンを使用することです。
体が女性の人が男性ホルモンを注射すれば、体は筋肉質になっていき、声は低くなり、ヒゲが生えてくるのです。
また、性別適合手術のうち、陰部について説明すると、MTFの人は、ペニスと精巣を切除し、
「自分の子供が欲しい」
これらのホルモン療法や性別適合手術をすることによって、生殖器が切除されるので、「自分の子供」を作る能力は消失してしまいます。近年、将来自分の子供を持つチャンスを残すために、こういった治療前に精子や卵子を凍結保存する試みがなされてきました。
2012年のベルギーで行われた調査は、興味深い結果でした。性同一性障害のFTM男性(体は女、心は男)の54%が「自分の子供が欲しい」と答えました。過去の時点での希望を含めると、実に6割以上に達していたのです。(表1)
性同一性障害の治療(ホルモン療法もしくは手術)を開始すると、体の中では「配偶子(精子と卵子)」を作ることができなくなってしまいます。そこで、治療の前に精子と卵子を採取して、凍結保存する必要があります。
私は精子の専門家として、精子を凍結保存する場合について考えました。(1)生殖補助医療に用いられる場合、(2)悪性腫瘍の化学療法や放射線治療で、造精機能の低下が予想される場合の2ケースが想定されます。
ただし、日本ではMTF女性の手術前の精子凍結保存に関して、規定がありません。個々の生殖医療技術に関しては、各国で種々の倫理規定があるため、どこの国でも同様に施行できるわけではありません。
まだまだハードル
先日、「MTF女性の性別適合手術前に、精子凍結保存をしてほしい」との依頼を受けました。日本国内では、MTF女性の精子凍結保存の報告はほとんどありませんでした。学会で議論された中では、日本でも過去に数例のMTF女性の精子が手術前に保存がされていたことがわかりました。
私の病院では、倫理委員会の承認の上、精子の凍結保存を行いました。精子の凍結保存をしたとしても、将来それを用いる場合には、パートナーが男性の場合は代理母が必要となるため、現在の日本では使用が難しいのが現状です。パートナーが女性の場合であれば、人工授精や体外受精が可能となります。いずれにしても、まだまだハードルがあります。
性同一性障害には、当事者しかわからない複雑な問題があると思います。世界の報告を省みると、MTF症例の精子の凍結保存も、
カップルの一方が性同一性障害であっても、通常のカップルと同様の基準で生殖医療技術を適用するべきなのです。
不妊治療に携わっている医師として、治療の選択肢は多い方がよいと考えているからですが、今後、このような議論が増えてくるかもしれません。
今回で、「新オトコのコト」は休載になります。「オトコのコト」時代を含めると4年半以上と長期間の連載となりました。読売新聞のウェブサイトへの寄稿ブログで、悩める男性たちに向けて、どこまで医学的な見地から“下ネタ”を書けるのか、というのが私のテーマでした。読者と読売新聞担当者の皆様の応援のおかげで頑張ってこられました。深く感謝申し上げます。
またそのうちオトコの気になるニュースを書きたいと思っています。今までありがとうございました。
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これまで余り多くはコメントしませんでしたが、このコラムはとても楽しく拝読しておりました。休載は残念ですが、また興味深いお話しを聞くことができる機会をお待ちしています。
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またそのうちひょっこりと医療記事を書いて戻ってくることを待っています。
私が知りたかったのは、週刊誌や男性向けファッション誌に載っている男性器の増大サプリや器具の効果は医学的に証明されているのか?など、同い年の小堀医師に教えてほしいことが沢山あります。
まだまだ聞き足りないことだらけ。
シカゴから帰国して、いきなりの新聞連載お疲れさまでした。
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興味深く読ませていただきました。前立腺がんが見つかったときに読んだ記事に救われました。高齢者の性にも光を当てて戴きたいと思います。
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