高齢者の認知症、発症率が低下 欧米研究で相次ぐ

ジェームズ・ギャラガー科学・ヘルス担当記者

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認知症の危機的な増加に対する懸念を和らげる研究結果が相次いでいる。

21日に米医学誌「JAMA Internal Medicine」(電子版)に掲載された研究では、高齢者の認知症発症率が低下していることが示された。英国や欧州大陸で行われた研究でも同様の結果が出ている。

今回公表された研究では、65歳以上の男女2万1057人を対象にした調査で2012年の認知症の割合は8.8%となり、2000年の11.6%から低下していた。

教育水準の上昇が認知症予防に貢献している可能性がある。ある専門家は、「世界にとって非常に重要な」研究結果だと語った。

欧州で実施された同様の研究では、認知症の発症率が英国人、またスペイン男性の間で低下した。そのほかの欧州各国でも発症率の上昇が止まっていた。

脳の保護

今回「JAMA」で発表された研究を行った米ミシガン大学のケネス・ランガ教授は、「認知症のリスクが実際に低下しており、認知症がもたらす負担増が、従来予想されていたよりも深刻化しない可能性を示す証拠が増えるなか、我々の研究結果がさらに加わった」と述べた。

脳機能のゆっくりとした低下には薬や治療法が見つかっておらず、回復はできない。しかし、認知症の予防法発見は非常に重要だ。

教育が予防に役立っているとは長年推測されていた。今回の調査では、2012年時点で、調査対象者が学校や大学に通った平均年数は12.7%(2012年)と、2000年時の11.8%から上昇した。

教育を受けることに伴う頭脳の訓練が将来、脳細胞が死ぬのを抑制したり、神経細胞が減少し始めても、脳が順応し、認知症が症状として出るのを予防している可能性がある。

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体の健康も脳の保護に役立つとみられている。

しかし研究では、2012年の糖尿病や肥満、高血圧の比率が2000年と比べて上昇したことも示された。

投薬による治療が進歩したことで、これらの疾病による悪影響を軽減した可能性もある。

欧州での調査した英ケンブリッジ大学のキャロル・ブレイン教授は、一部の国で認知症の発症率が低下していることを示す上で、米国の研究は強力な補完的証拠になると評価する。

この傾向には教育が大きな役割を果たしているとみられ、教育水準が高い人は、認知症の発症を遅らせることができているようだとブレイン教授は話す。

ブレイン教授は、研究結果が「世界にとって非常に重要で、教育を受ける機会がいかに大切かを示している」とした上で、「しかし、複数のリスク要因が関わっているとみられる。妊娠時からの健康やワクチン接種、教育を受ける機会、医療ケア、禁煙が組み合わさることで効果が出る」とも説明する。

認知症の予防に役立つものを明確にすることで、「時計の針を逆戻りさせないようにできる」とし、「そうでなければ、我々の世代が実現した進歩を将来の世代が享受できない」とブレイン教授は語った。

死因第1位

しかし、認知症の罹患数は依然として増加する可能性がある。率は低下しても高齢者の絶対数が増える見通しだからだ。

認知症の発症率は低下しているものの、2015年には英国のイングランド、ウェールズ両地方で最も多い死因となっている。

認知症以外の疾病による死亡が減少し、死亡記録の取り方が変更されたことも、認知症が死因の上位に上がった背景にある。

英慈善団体「アルツハイマーズ・リサーチUK」のヒラリー・エバンズ氏は、今回の研究結果が「希望を与えてくれる」としながらも、認知症は依然として「医療分野の最も困難な課題」だと指摘した。

エバンズ氏は、「研究結果は前向きな内容だが、数多くの人が認知症を患っていることを忘れるべきではない」と語った。

「西欧の一部と米国で認知症の広がりが減速あるいはは安定化したことを示す証拠が増えるなかで、今回の有用な研究もそれを補強しているが、まだ解明されていないことは多い」

「分かった内容を公衆衛生上のアドバイスに生かすためには、この明らかな変化が何によって起きているのかを理解する必要がある」

米ウィスコンシン大学のオジオマ・オコンクオ、サンジェイ・アスサナ両博士は、「発症率の低下を示す研究結果が継続的に出てきていることには勇気付けられる」とした上で、「傾向の背景にある要因をより良く理解し、認知症リスクを個人と社会両方のレベルで低下させる支援の方法に生かせる知識にすることに焦点を当てるべきだ」と述べた。