日々を過ごす中で、何かしらの課題を抱えている人は多いでしょう。私の場合、自分の記事をもっと多くの人に読んでもらいたい、ジムでもっと重いウエイトを持ち上げたい、マインドフルネス瞑想をもっと定期的にやるようにしたい、といったことです。

でも問題は、目標に向かってがんばろうと決意しても、ある時点でもとの習慣に戻ってしまう自然な傾向があることです。生活習慣を完全に変えるのは本当に難しいのです。

最近、私は、この難しい生活習慣の変更を少し容易にしてくれる(かもしれない)2、3の研究報告を目にしました。読んでいただくとわかるとおり、生活の多くの部分を制覇するには、やや直観とは相入れないアプローチが必要なのです。

多すぎる目標

複数の習慣を身につけ、それらをずっと続けたいなら、定着させる方法を考えなければなりません。どうしたらよいのでしょう?

目標の行動を遂行する方法についての心理学研究の結果のなかから、最も着実なものの1つを紹介します。

目標の行動をいつ、どこで、どのように実行するのか、具体的に計画したほうが、していないよりも、習慣を続けられる確率が2~3倍高くなることが研究でわかっているのです。たとえばある研究では、科学者たちが参加者にこんな文章を穴埋めさせました。

私は来週、『○曜日』の『○時』に『○○の場所』で少なくとも20分間の激しい運動をする

その結果、この文を穴埋めした人々のほうが、計画を書き記していない対照群に比べ、実際に運動する確率が2~3倍高かったのです。心理学者たちは、この具体的計画のことを「実行意図」と呼んでいます。特定の行動をいつ、どこで、どのように実行する意図があるかを書いたものだからです。

この研究結果は、十分に実証済みで、幅広い分野において何百回と再現されています。実行意図によって、運動を始めたい、リサイクルを始めたい、勉強を続けたい、禁煙したいといった人々の実行確率が上がることがわかっているのです。

しかし(ここを理解しておくのが非常に大切なのですが)後の追跡研究で、実行意図が効果的なのは、1度に取り組むのを1つの目標に限った場合のみであることがわかりました。複数の目標を達成しようとした人は、目標を1つに絞った人に比べて、意志が弱く、成功率も低かったのです。

大事なことなので、繰り返します:新しい習慣をいつ、どこで、どのように続けるのかという具体的な計画を立てることで、実行できる確率が劇的に向上しますが、それは目標を1つに絞った場合に限ります

的を1つに絞ることでどうなるのか

では、1度に1つの習慣に的を絞るべき科学的理由をもう1つ紹介します。

新しい習慣を始めた当初は、かなり意識的に努力しないと忘れてしまいますが、しばらくすると、その行動パターンが楽にできるようになってきます。そしてやがて、新しい習慣が普段のルーティンとして定着し、ほぼ無意識的で自動的なプロセスとなるのです。

科学者たちはこのプロセスのことを「自動行動」という難しそうな用語で呼びます。自動行動とは、1つひとつの手順を考えることなく、ある行動ができる能力のことで、それができると、パターンは、自動的で習慣的なものとなります。

ただ、問題は、自動行動は、多くの反復と実践があっての上で身につくものだということです。繰り返す回数が多いほど、行動がより自動的になるのです。

たとえば、この表は、朝食後に10分のウォーキングをするという習慣が定着するのにどのくらいかかるかを示したものです。最初は自動行動の度合いがとても低いです。30日経つと習慣がかなり日常化してきます。そして60日後には、プロセスがきわめて自動的になります。

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ここで注目すべき最重要ポイントは、新しい習慣がほぼ自動的になる「ティッピング・ポイント(転換点)」が存在することです。習慣化にかかる時間は、その習慣の難易度、あなたの環境、あなたの遺伝的性格、などの要因にもよります。

それでも、上述の研究から、平均的な習慣が自動化するのにかかる時間は約66日であることが割り出されました(ただ、この数字を過信しないでください。この研究は、対象分野がとても広いので「新習慣が定着するには何カ月もかかる」というくらいに受け止めておくのが妥当でしょう)。

生活をがらりと変えるためには、がらりと変えない

では、ここまでで私が提案したことを復習し、実践的な極意をまとめましょう。

1. いつ、どこで、どのように実行するのかを、具体的に計画したほうが、習慣を続けられる確率が2~3倍高くなる(実行意図)。

2. 1つの習慣に的を絞る。同時に複数の習慣を身につけようとすると実行意図の効果が出ないことが研究でわかっている。

3. 実践すればするほど習慣が自動化することが研究で示されている。平均的には、新習慣が自動的な行動になるまでに少なくとも2カ月かかる。

そこで行き着くのがこの結論です。

この研究から得られる反直観的な洞察とは、生活をがらりと変えるための一番の方法は、生活をがらりと変えないこと、ということです。一気に変えるのではなく、しっかり身につくまで、1つの習慣に的を絞って取り組み、自動的な日課にするのがベストなのです。その上で、次の習慣に向かってこのプロセスを繰り返します。

長期的により多くのことを身につけるには、今取り組むことを1つに絞るのが一番なのです。

The Scientific Argument for Mastering One Thing at a Time | James Clear

James Clear(原文/訳:和田美樹)

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