「エクササイズを1セットこなすと、抗うつ薬のプロザックやリタリンを少量摂取した時と同じような効果があります」。これは、この分野でトップレベルに属するある研究者の以前の発言です。

さらに、運動には人の気分を明るくしたり、落ち着かせたりする以上の効果があることがわかっています。それに加えて、記憶力をアップさせるのにも運動が役立つことが、新たな研究で判明したのです。学習のスピードを速め、物覚えを良くするコツや裏技といったものは世にあふれていますが、そのほぼすべては「勉強法」にフォーカスしています。例えば、一定の間隔を置いて勉強するとか、テキストを読み直すよりはセルフチェックをしたほうが身につきやすい、といった話です。これに対して今回の研究の新しい点は、この「勉強法」が効果を発揮する場所が図書館やコーヒーショップではなく、ジムだというところにあります。

汗を流すことが記憶力向上につながる?

この説は、オランダのラドバウド大学医療センターにあるドンダース研究所で行われた、運動が記憶力に与える影響を調べた研究から導き出されたものです。この関係を調べるため、研究チームは72人の被験者に、まずは90の単語を連想記憶してもらいました。次に、被験者は以下に挙げる3つのグループに分かれ、それぞれの指示に従います。第1の対照群は特に何もせず、第2の対照群は単語を記憶した直後に35~40分の運動を行い、第3の対照群は記憶してから4時間後に第2グループと同じだけの時間、運動しました。

それから2日後、被験者に記憶した単語を思い出してもらうテストを実施しました。その結果は? 何と、単語を記憶してから4時間後にエクササイズバイクに乗ったグループが、ほかの2グループと比べて抜群に良い成績をあげたのです。

何かを学んでから数時間後にエクササイズをすると、記憶への定着が促進される理由は、まだわかっていません。とはいえ、運動により分泌が促されるドーパミンやノルアドレナリンといった物質が絡んでいる可能性が考えられます。ほかの研究で、こうした物質が記憶力に影響を与えることが示されているからです。今後は、運動と記憶力の間にあるメカニズムを解き明かすだけでなく、記憶してからどのくらい時間を空けて運動するのが最適なのかを、実験により把握する必要もあります(まだわかっていないだけで、4時間ではなく3時間後のほうが効果が大きいかもしれません)。

とはいえ、今後どんな研究成果が追加で出てくるにせよ、現時点で何か新しいことを学ぼうとしている人が、今回の研究で得られた成果を活用しない手はありません。研究チームも、以下のような結論を導き出しています。「我々の研究結果から、適切なタイミングで行われた身体運動は、長期記憶を改善し得ることが示唆されています。また、教育ならびに臨床の環境で、運動の時間を導入することのメリットにも光を当てるものとなっています」

これはつまり、教育機関は体育の授業を組むタイミングを、よくよく考えるべきだということかもしれません。また、専門的職業に就く人たちは、暗闇で自転車を漕ぐフィットネスチェーン「SoulCycle」でのセッションや近くのランニングロードに向かうタイミングと、新しいことを学ぶ時間をうまく組み合わせるべきでしょう。

A Simple Trick to Cement a New Memory|Inc.

Jessica Stillman(訳:長谷 睦/ガリレオ)

Photo by Shutterstock