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ベンゾ系薬物の影響(1)痛み、まぶしさ、かすみ…さまざまな症状

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 ベンゾジアゼピン(以下ベンゾ)系の薬物と、ほぼ同等の作用を持つ類似薬は睡眠導入薬、安定剤、抗てんかん薬などとして日本の医療界でも大量に用いられています。

 その歴史は50年を超えますが、依存性(心身が薬を要求し、やめにくくなること)や、耐性(だんだん効果が弱くなり、服用量が増えていくこと)が生じることや、減薬、断薬しようとすると症状が一層重篤化して治りにくくなったり、新たな好ましくない症状が出現したりする離脱症候群について、世界の医師がしっかりした認識を持つようになるには、かなり時間がかかりました。 

 1992年に英国で、ベンゾの依存性や離脱症候群について医師たちに警告を与えなかった製薬企業に対し、これを処方されている1万4千人による集団訴訟が起こされています。これに引き続く形で、2002年、ニューカッスル大学のH.アシュトン教授が、「アシュトンマニュアル」と呼ばれるベンゾ系薬物の作用や減薬の手順をまとめたものを発表して以来、とくに欧米でのベンゾの依存性や耐性に対する認識が深まりました。

 それ以降、欧米では、的確な薬剤が決まるまでの一時しのぎ、あるいは症状が出た時に、一時避難的に用いる頓用薬として利用する薬剤として定着しています。

 ところが日本では1998年の時点で、ベンゾ系抗不安薬の処方件数は米国の6倍、英国の20倍以上にも及ぶ状態で、「軽い薬だから一生飲んでも大丈夫」といった使われ方をしていたのでした。そして、欧米と違ってそうした使われ方は続き、ついに2010年、国際麻薬統制委員会が日本のベンゾ系薬物の乱用を「警告」することになった事実は、 2015年12月24日のコラム で取り上げた通りです。

 にもかかわらず、日本でのベンゾ系薬物の処方は現在でもほとんど減らず、類似薬を含めると1500億円近い市場を形成していると思われます。

 患者が、こういう事実を知って減薬したいという意思を示す例も出てきました。ただ、担当医が同意しないことも少なからずありますし、仮に同意したとしても、上手な減薬方法を指導できる医師は少ないように思われます。

 私は、ベンゾ系薬物または類似薬の連用が、ヒトの視覚を快適に利用するのを邪魔するさまざまな症状を出現させていることに数年前から気づき、データを集積しております。

さまざまな症状とは、前々回、前回にも触れた、治りにくい目の痛み、 羞明(しゅうめい) (まぶしさ)、霧視(かすみ)といったものです。

 その詳細は今年11月に宮崎市で開催される第54回日本神経眼科学会の特別講演の中で、「ベンゾジアゼピン眼症」として発表すべく準備をしているところです。

 現時点では、こうした目のさまざまな症状が出現していることを、ベンゾ系薬物を処方している医師に告げても、必ずしも望ましい対応がなされないこともあります。なぜそうなるのか、次回以降考えてみたいと思います。

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