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熊本地震の余震恐怖…ストレス深刻、「心のケア」課題
避難所に「相談室」
熊本地震の発生から2週間以上が経過し、長引く避難生活や絶えない余震への恐怖などで、被災者は強いストレスにさらされ続けている。心や体の深刻な不調につながらないように、被災者の声に耳を傾け、不安をときほぐす「心のケア」が今後の大きな課題だ。(西部社会部 橋谷信吾、医療部 利根川昌紀)
耳傾ける
「寝ている間に山が崩れてしもうて、家も何もぐちゃぐちゃだ」
29日午後、熊本県南阿蘇村の施設に避難していた80歳代の男性が声をうわずらせて話し始めた。被災者の心のケアのため、兵庫県の医療機関からボランティアで駆けつけた
「こんな経験は初めて」と声を震わせる男性に、西藤医師は「これから大変と思いますが、奥さんと一緒に乗り越えて」と穏やかに応じ、1時間ほどじっくり耳を傾けた。男性は落ち着きを取り戻し、最後は「話を聞いてくれてありがとう」と頭を下げた。
西藤医師らのグループは、宮城県名取市のNPO法人「地球のステージ」が、南阿蘇中学校の避難所に開設した「こころの相談室」を拠点に活動している。
東日本大震災の復興支援などを行っている団体で、代表理事の桑山紀彦医師らが中心になり、仲間の医師や臨床心理士らと交代で、村内各地の避難所などでも心のケアにあたる。
被災によるストレスや不眠が続くと、うつ病や不安障害などの精神疾患の発症につながる恐れがある。心臓や血圧などにも悪影響を及ぼし、心筋梗塞や心不全、エコノミークラス症候群などのリスクも高まる。それらの予防には早い段階からの心のケアが欠かせない。
遊び場
熊本県
遊びはストレスを発散させ、不安感や恐怖心を取り除くことにつながる。
子どもの心のケアが専門の臨床心理士・成井香苗さんは「東日本大震災では地震や津波のごっこ遊びが見られた。不安や恐怖を取り除く行為のひとつで、無理に止めず、『怖かったね。もう大丈夫だよ』と声をかけて抱きしめ、安心させてほしい」と指摘する。
東日本大震災で津波の被害を受けた宮城県七ヶ浜町では、震災から半年以上たっても、住民の約3割に、ちょっとしたことでドキドキする、などの心身の不調が残り、約4割に不眠などの睡眠障害が疑われたことが、東北大学と同町の共同調査で分かっている。
東日本大震災に比べ、熊本地震の死者は少ないが、震度1以上の揺れが2週間で1000回を超えるなど余震の多さが際立つ。
被災者の心のケアに詳しい福島県立医科大学の丹羽真一特任教授は「余震への恐怖心は、東日本大震災以上かもしれない。早く安心感を持てるように支援する必要がある」と話す。
DPAT
東日本大震災では心の問題への対応が遅れたことから、厚生労働省は2013年、都道府県と政令市に災害派遣精神医療チーム「DPAT」の整備を求めた。精神科医や看護師などの数人のチームが被災地の精神保健医療を支援する。
今回は発生直後から被災地に入り、精神科病院の患者搬送の支援などを行った。29日現在、21都道府県の22チームが活動する。
DPATの設立に関わった国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の
呼吸法で不安軽減…東日本大震災時に効果
被災者自身も、自らのストレスを少しでも和らげるように努めたい。
金部長は、不自由な生活を送る被災者に「簡単な呼吸法などで緊張感は和らぐこともある。ぜひ実践してほしい」と呼びかける。
薦めるのが、東京有明医療大学の本間生夫副学長が考案した「呼吸筋ストレッチ体操」だ。肩や背中などのストレッチに合わせて息を吸ったり吐いたりする。5種類あり、全て行っても5分ほどで終わる。
ストレスを受けることで速まる呼吸を安定させると、脳の
本間副学長は「熊本でもぜひ生かしてほしい」と話す。呼吸筋ストレッチはiPhoneとiPadで利用できるソフト「呼吸ストレッチ」もあり、無料でダウンロードできる。
余震に強い恐怖を感じたり、不安で眠れなかったりするのは、今回のような震災では自然なことだ。深刻に考える必要はなく、多くは、悩みを周囲の人たちと共有し、生活環境が安定すれば次第に収まる。
米国立PTSDセンターなどは、救援者側に対しても、「災害にあった人すべてがトラウマを負うとは考えないでください」「被災者を弱者とみなし、恩着せがましい態度をとらないでください」などの心構えを示している。
(医療部 佐藤光展)
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