お金がない!

貧困が恐ろしいのは心まで壊すこと…生活保護家庭の苦悩を描く異色のマンガ『陽のあたる家』が売れている理由とは?

【お金がない!】貧困が恐ろしいのは心まで壊すこと…生活保護家庭の苦悩を描く異色のマンガ『陽のあたる家』が売れている理由とは?
【お金がない!】貧困が恐ろしいのは心まで壊すこと…生活保護家庭の苦悩を描く異色のマンガ『陽のあたる家』が売れている理由とは?
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親から子供への「貧困の連鎖」をどう断ち切るのか-。漫画家、さいきまこさん(55)が、生活保護や貧困家庭で育つ子供たちを描いた漫画が大きな反響を呼んでいる。

さいきさんは平成25年、月刊誌「フォアミセス」(秋田書店刊)で『陽のあたる家~生活保護に支えられて~』を連載した。夫婦と子供2人の家族を中心に描かれ、夫の病気を機に失業し、坂道を転がるように困窮。生活保護を受けたことで「税金を使って好き勝手している」といった偏見にさらされながらも、生活を立て直す物語だ。

出版社からは当初、「(売れないから)本には、ならない」と告げられた。しかし、連載中から「ひとごととは思えない」「身につまされた」などと一般の読者や社会福祉関係者らから大きな反響が寄せられた。

折しも、核家族化や非正規労働の増加により、ちょっとした理由で普通の家庭が貧困に陥ることが珍しくない時代背景があった。厚生労働省は3月2日、全国で生活保護を受けている家庭は昨年12月時点で163万4185世帯となり、過去最多を2カ月ぶりに更新したと発表した。さいきさんの同名の漫画は単行本化(同社刊・700円+税)。3刷まで増刷されるほど注目を集めている。

「生活保護が最後のセーフティーネットとして再認識されてきたのかもしれない」

こう話す、さいきさんは39歳のとき当時小学2年の長男を連れて離婚。正社員として再就職を試みたが職はなく、漫画のほか、ライターや編集の仕事もしたが、生活はいつも苦しかった。貯蓄する余裕はなく、老後を考えると不安に駆られたという。

『陽のあたる家~』を描き始めたきっかけは連載開始の前年、お笑い芸人の母親が生活保護を受給していたことから起こった「生活保護バッシング」だ。

「国民年金を40年払い続けても、老後に受け取る年金は満額月6万数千円。いつ生活保護になるかわからない」。そういう社会の現実があるにもかかわらず、「生活保護は恥だと思われている。生活保護にまつわる誤解を解きたいと思った」とふり返る。

■  □  ■

さいきさんの視線は、生活保護受給家庭で育つ子供たちにも向かう。取材を通じ、親の貧困が子供の生活や将来に大きな影響を及ぼしている例を見聞きしてきた。

27年7月に『神様の背中~貧困の中の子どもたち~』(同・900円+税)として出版。現在、18歳以下の6人に1人が相対的貧困にあるとされ、地域の平均的な生活水準に比べ、所得が著しく低い…。同書は、そんな過酷な環境で育つ子供たちが生まれてきた意味と、将来への希望を見い出せなくなる不条理を描く。

中でも胸を突くのが、精神疾患のある母親のもとで愛情をかけられずに育ちながらも、成績優秀な中学3年生が普通高校への進学をあきらめるシーンだ。

〈「大学出て希望する仕事に就けたとしても、オレら生活保護家庭の子は『親を保護から抜けさせるために一生養え』って、言われるんだ」〉

うつろな表情で語る中学生。「貧困家庭に生まれたのはその子の責任ではない。貧困が恐ろしいのは心までを壊すこと」と、さいきさんは言う。家庭の問題は家族で解決すべきといういまだ根強い風潮から、親も子供も外部に相談したり助けを求めたりすることはまれだ。それが、子供の貧困を見えにくくしている。

「貧困の連鎖を断ち切るために、子供たちのシグナルに気づいてほしい」。作品に込められたメッセージは明確だ。(村島有紀)

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