従来のマーケティングリサーチでは、消費者にアンケートやインタビューをすることでその嗜好を探り、それを製品・サービスに活かすのが一般的であった。だが、消費者は本当に自分のことを正しく認識しているのであろうか。さまざまな実験により、彼らが言語化したニーズは思い込みである可能性も高いことがわかってきた。真のニーズを探りビジネスで成功を収めるためには、潜在意識、つまり脳を知ることが重要である。NTTデータ経営研究所ニューロイノベーションユニット長を務めるなど、ニューロマーケティングの最先端を知る萩原一平氏が、ビジネスと脳の関係を解き明かす。連載最終回。

脳は他人の行動や心理を読む

 昨今、日本への観光客は急増しており、街で外国人を見かけることも珍しくはない。

 たとえば駅のホームで、やって来た電車に乗ろうか乗るまいかと迷っている外国人カップルを見かけたこともあるのではないか。その時、不思議なことが起きている。彼らに質問したわけでもないのに、あなたはなぜ「外国人」の「カップル」が「迷っている」と判断できるのだろうか。

 このとき脳は、視覚から入ってきた二人の男女の情報と、脳の中に蓄積されている情報を比較している。そして髪の毛や肌の色、骨格などから二人は外国人であること、男女の年恰好、仕草などからカップルであることを判断している。さらに、その表情や動きから、彼らは道に迷っているのだろうと推測している。相手が日本人ではなく(と思われる)、言語も生活習慣も違うのにそれを推察できる。

 これは日常生活だけでなく、ビジネスの場面でも何気なくやっていることだ。目の前のお客様は品物の割に値段が高いと考えているだろうとか、商品棚の前にいるお客様は商品を手にしようとしているなど、何気なく相手の心を読んだり、行動を予測したりしているのである。

 人間に備わった、他人を理解し他人の行動を予測できる機能、能力を「心の理論」を持つという。多かれ少なかれ、誰もがその能力を備えており、普段は当たり前に行なっているこの何気ない行為は、非常に重要な意味を持っている。