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【発達障害 どう向き合う】高校、大学の取り組み

 「小中学校では特別支援学級と通常学級を行き来してきたけれど、高校ではやっていけるのか。そもそも受け入れてくれる高校はあるのか」。発達障害のある中学3年の保護者から、生活特報部にこんなメールが寄せられた。高校や大学での支援の現状を取材した。

 ●常識やルール授業で学ぶ 佐賀・太良高 「全県枠」で受け入れ

 教室は隣の生徒が気にならないよう、机と机の間隔が広い。音に敏感な生徒のため、机と椅子の脚は消音用のゴムで覆われている。授業中は、生徒たちが落ち着いて授業を受けられるように「学習支援員」2人が教室を訪ね、見守る。

 佐賀県立太良高(同県太良町、202人)は2011年、発達障害のある人、不登校経験者などを受け入れる「全県枠」(普通科定員80人のうち40人)を新設した。公立高校で「発達障害のある人」の積極的な受け入れを掲げたのは、全国初という。15年度の全県枠での入学者のうち発達障害のある生徒は半数で、年々増加している。集団生活に慣れていない生徒も多いため、特別に配慮した授業が特徴だ。

 3年生の「自立活動」では、日常生活の一場面を生徒たちが実演する。例えば、落とし物を拾ってもらったらどうするか。何も言わずに受け取るケース、「ありがとう」と笑顔で受け取るケースを演じて、それぞれどんな気持ちになったかを発表する。

 発達障害のある人は、常識や暗黙のルールを理解するのが苦手なことが多いが、こうした授業で一つずつ理解を深めていく。教育相談主任の南一也教諭(50)は「社会に出て困らないよう、集団生活のルールを学んでほしい」と話す。

 精神面の支えにも気を配る。校内には生徒が相談や休憩に使える相談室が4室あり、原則、担当職員が常駐する。ただし、授業に出て単位を取らないと卒業できないため「中学校とは違います。ここにいても卒業できません」と書いた紙を掲示。生徒の状態を注意深く見守りつつ、なるべく教室で過ごさせる。

 地域の協力も心強い。住民が「手話」などの4科目で特別非常勤講師を務め、体験学習の機会も設けている。教職員以外の大人との触れ合いで生徒のコミュニケーション能力を高めるのが狙いだ。山口孝校長(57)は「住民の理解と協力があるから、きめ細かな支援ができる」と強調した。

 ●臨床心理士がサポート 福大 面談や教員への橋渡し

 福岡大(福岡市城南区、約2万人)は入学予定者全員に障害支援の案内を郵送し、入学前から支援申請を受け付けている。臨床心理士2人が常勤する「ヒューマン・ディベロップメント・センター」には、学生から年200件以上の相談が寄せられる。「就職活動がうまくいかない」「授業が分からない」など、発達障害の傾向がある学生の相談が増えているという。

 3年前に入学したアスペルガー症候群の学生は、大学構内の広さに「場所を覚えられない」と取り乱した。カウンセラーが「数カ月で慣れる」などと説明したら落ち着いた。今も定期的に面談を受けながら通学している。

 センターが教員に配慮を求めたこともある。リポートをまとめられない学生は、リポートを書きやすいよう身近なテーマに変えてもらい、口頭発表が苦手な学生は発表資料を作る役割にしてもらった。また、発達障害のある学生同士がコミュニケーション能力を高めたり、対人関係に必要な技術を学んだりするグループ活動も促している。

 ただ、こうした支援態勢を整えている高校や大学は少ない。太良高の南教諭は「学校単位で教育内容を柔軟に決められる制度と教員の力がそろわないと、十分な支援は難しい」と指摘。福岡大のカウンセラー屋宮(おくみや)公子さん(60)は「発達障害のある学生が多いという認識は広まってきたが、大学で支援にばらつきがある。各大学の規模や学生が抱える課題に合わせた支援の仕組みが必要」と訴えている。


=2015/07/23付 西日本新聞朝刊=

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