人命と健康を預かる医師たちが、ブラック企業ならぬ「ブラック職場」で働いているとしたら、患者は安心して病院に頼れるだろうか。公立八鹿(ようか)病院(兵庫県養父市)で勤務していた男性医師=当時(34)=の過労自殺をめぐり、両親が損害賠償を求めていた訴訟は、3月の2審判決で改めて病院側に賠償命令が出された。大学病院などで働く勤務医は、慢性的な人手不足によって当直を含む長時間労働を強いられる傾向にあるが、医師ならではの職業観が過労死・過労自殺のリスクを高めている可能性も捨てきれない。
(小野木康雄)
ごみ箱に破られたメモ
男性医師は平成19年10月、鳥取大から公立八鹿病院に派遣され、整形外科医として勤務。鬱病を発症し、2カ月後の12月に官舎で自殺した。鳥取大では、付属病院の研修医だった期間を含む2年余りの間、問題なく働いていた。
官舎のごみ箱からは、細かく破られたメモが見つかった。そこには、こう書かれてあったという。
〈僕は医者である前に人間として不適合者です 僕が社会参加するとまわりの人達に迷惑をかけます 社会参加から離れ次の自分の居場所を見つけられません 居場所がないので自分を始末します〉
男性医師の過労自殺は22年8月、公務員の労災に当たる公務災害が認定され、両親は同年12月、病院組合と医師である元上司2人を提訴した。男性医師がこの2人からパワーハラスメントを受けていたからだ。
26年5月の1審鳥取地裁米子支部判決は、病院組合と元上司2人に約8000万円の損害賠償を支払うよう命じた。
これに対し、今年3月18日の2審広島高裁松江支部は判決を変更。「過失相殺は認められない」として賠償額を約1億円に増額した一方、地方公務員だった元上司2人は国家賠償法に基づいて、個人としての賠償責任は負わないと判断し、病院組合にのみ賠償金の支払いを命じた。男性医師側と病院側の双方が上告している。