ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

では、日本の論文の質(注目度)はどの程度か?(国大協報告書草案33)

2015年02月09日 | 高等教育

 前回のブログ「日本の生産年齢人口あたり論文数は第何位か?」をお読みいただいたみなさんの中で、何人かの方々が、では論文の質(≒注目度)についてはどうなのか?ということをつぶやいておられますので、高注目度論文数についても生産年齢人口あたりで計算したグラフをお示しすることにします。また、研究者数や研究費との関連はどうか?ということもつぶやかれていますので、それについて以前にお示ししたグラフを再度お示ししておきます。新たに僕のブログを読んでいただいたみなさんが、以前の僕のブログまで遡ることはとっても困難ですからね。

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5)日本の生産人口あたり高注目度論文数について

 図表III-151に、学術文献データベースであるInCites™における相対インパクト(impact relative to world)の推移を主要国で示した。相対インパクトは、その国の論文あたり被引用数を、世界における論文あたり被引用数で割った比率である。つまり、この値が「1」である場合は、世界の論文の被引用数の平均ということであり、1以上の場合は世界の平均以上に引用がなされているということであり、1以下の場合は世界の平均以下の引用しかなされていない、ということを意味する。なお、InCites™、すなわちWeb of Scienceというデータベースに収載されている学術誌は、管理者がある基準でもって取捨選択をした学術誌であるとされ、世界平均とはいっても、ある程度質が担保された学術誌に掲載された論文の被引用数ということになる。もちろん、和文で書かれた論文のほとんどは、この対象になっていない。

 なお、論文の「質」=「被引用数(注目度)」とは必ずしも言えないが、同業の研究者が引用に値するという評価を与えた論文ということであることから、ある面の「質」を反映している指標であると考える。本報告書では論文の「質」≒「注目度」として論じる。

 図表III-151を見ると、1990年頃までは、米国が常に被引用数トップであったが、2000年頃からヨーロッパ諸国の被引用数が相対的に上昇し、米国は相対インパクト1.4という高い値を維持しているものの、他国に追い抜かれ、現在12位となっている。

 日本の相対インパクトは以前は0.8程度であり、世界平均よりも被引用数が少なかった。そして、1990年代に多くのヨーロッパ諸国が被引用数を増やした流れについていけず、他国との差が開いた。日本の相対インパクトが徐々に上がり始めるのは2004年頃からであり、現在ようやく世界平均の1に達したところである。

 日本は中国、台湾、韓国よりも相対インパクトが高い値であるが、これらの新興国はいずれも急速に相対インパクトを高めており、日本に近づきつつある。

 日本の相対インパクトの順位は、今回調べた範囲では第26位である。

 次に、科学技術指標2013の資料のデータより、高注目度(Top1%補正)論文数について作図した図表III-152を示す。Top1%補正論文数とは、被引用回数が各年各分野で上位1%に入る論文の抽出後、実数で論文数の1/100になるように補正を加えた論文数である。この指標は論文の「質×量」を反映する指標であると考えられる。


 2000-02年から2010-12年にかけて、日本の増加は海外諸国に比較して少なく、第10位となっている。前節では通常論文数について日本は第5位であることを示したが、この結果は、日本の研究面での国際競争力の低下が論文数だけではなく、論文の注目度(≒質)も伴っていることを示唆している。

 これを人口あたりで表現したグラフが図表III‐153である。

 科学技術指標に示された国の中では日本は第21位であり、ポーランドとほぼ同じ値である。もし、これ以外の国についても調べることができれば、日本の順位はさらに低くなるものと考えられる。

 生産年齢人口あたりで表したグラフが図表III-154であるが、日本の値は多少高くなっているものの、順位は変わらない。


 

 

 日本の研究(論文産生)面での国際競争力は、量にとどまらず、注目度(≒質)においても低下している。

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 さて、ここで、以前にお示しした、OECDの公開データにもとづいた研究者数(研究時間を考慮にいれたFTE研究者数)や公的研究資金についての一連の分析結果を再掲しておきます。これは1月28日の国立大学協会でプレゼンをした時のスライドの一部です。

 


以前のブ

 このような国際的なデータ分析から、日本が研究(論文産生)面の量および質について国際競争力を喪失した主な要因は次のようなことであると考えています。

1)大学への公的研究資金が先進国中最低で、増加していない。
2)大学のFTE研究従事者数が先進国中最低で、増加していない。
3)論文数に反映され難い政府研究機関への公的研究資金の注入比率が高い。
4)大学研究費の中で施設・設備費比率が高い。
5)博士取得者数が先進国中最低で、増加していない。

 これらのことが、法人化後の国立大学についてのデータの分析でもっても裏付けられるのかどうか、が次節のテーマです。

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 8. 国立大学群間で論文数の差異を生じた要因の分析

  以上の国際的な分析および国立大学における論文生産性の分析を踏まえて、法人化後の国立大学群間での研究力(論文産生力)における差異を生じた要因について、各大学の財務指標等、利用可能な範囲の指標を用いて可及的に検討した。

 まず、論文数と各種指標の横断面(クロスセクション)分析により、相関係数を検討した。
  
 図表III-155は、2010年の財務指標・学生数等の指標と2012年の論文数との相関を検討したものである。タイムラグを考慮して各種指標と論文数との間で2年の期間を開けているが、2010年の論文数を用いても同様の結果が得られる。




 相関を検討したすべての指標について、有意の正相関が認められた。規模が大きい大学ほど論文数が多く、したがって規模を反映するすべての指標が論文数と相関すると考えられる。ただし、当然のことではあるが、相関係数には強弱がみられる。

 まず、研究者数を反映する指標については、相関係数の高いものから、推定理系FTE教員数、推定理系教員数、常勤教員数、教員人件費の順である。

 学生については、博士課程学生数、修士課程学生数、学士課程学生数の順である。

 研究費関係では、科研費採択件数、研究経費、科研費配分額、受託研究費(国及び地方公共団体以外)、が並び、ついで運営費交付金、寄付金が位置している。


 次に常勤教員あたりの論文数と、常勤教員あたりの各種指標についての相関を検討した。

 
 
 科研費採択件数、受託研究費(国および地方公共団体以外)、研究経費、科研費配分額等の研究費関係の科目が並ぶ。

 また、理系FTE係数、理系係数が有意の正相関を示し、データベースの論文数に反映される論文数は、教員の中でも"理系"教員かどうかに左右されること、また、FTE、つまり研究時間に左右されることを示唆している。

 学生については、博士課程学生数と有意の正相関が認められたが、学士学生数との間には有意の負の相関が認められた。これは、学士学生数が多い大学は教育の負担が大きく、その結果研究時間が短くなってFTE教員数(研究時間でフルタイム換算した教員数)が小さくなり、教員あたり論文数と負の相関をすると考えられる。授業料は、学士、修士、博士数のすべてを反映する指標であるが、相対的に学士数が多い大学が多く、学士教育の負担の論文産生に与える負の効果が強く表現されて、学士学生数ほどではないにしろ、負の相関係数を示すと考えられる。

 このような横断面分析から、国立大学間の論文数産生の差を生じている主な要因として

1)研究従事者の頭数の相違(教員数、研究員数、博士学生数等)
2)研究時間の相違(学士学生数は教育負担を反映し負の要因)
3)人件費以外の研究費の相違(科研費採択件数、科研費配分額、受託研究費、研究経費など)

が示唆される。なお、研究従事者の頭数と研究時間を合わせて、"FTE研究従事者数"として、一つの指標で表現できる。

 OECDの公開データにもとづく各国間の論文数と各種指標の分析により、FTE研究従事者数および大学への研究資金(特に公的研究資金)が論文数と強く相関したが、それと同様のことが、国立大学間においても観察されたことになる。


 


 

 



 

 

 


 


 

 

 

 

 

 

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