科学者と一般市民の科学認識に大きな溝

米シンクタンクが市民2000人、科学者3700人に調査

2015.02.05
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
子どもへのワクチン接種は危険と考える人は依然として多い。(Photograph by Joe Raedle, Getty)

 遺伝子組み換え食品を、科学者はYesと言い、消費者はNoと言う。

 さまざまな科学技術の進歩について、科学者と米国の一般市民の間に大きな「見解の隔たり」があることが、米国ワシントンD.C.に拠点を置くシンクタンク、ピュー研究所の調査で明らかになった。

 同研究所が1月29日に発表した調査結果によると、気候変動の原因や原子力の安全性といった議論では、従来と変わらず両者の溝は埋まっていない。さらに、麻疹(はしか)の流行とワクチン未接種の子どもたちとの関連をめぐる論争についても、科学者と一般人の間で意見の食い違いが生まれている。

「気候変動は人間のせい」に賛成は半数

 科学者たちはこうした認識の相違について、社会に研究成果を伝える彼ら自身の能力不足や、科学教育の不足が原因とみている。後者については市民も同意見で、過半数が米国の理科系教育を「ひいき目に見ても並」と評価している。

「米国人がこの先も科学の恩恵を受け続けたいと望むなら、よいニュースではありません」と話すのは、アメリカ科学振興協会(AAAS)のCEO、アラン・レシュナー(Alan Leshner)氏だ。「このような状況を変えるため、科学者の側が何らかの行動を起こす必要があります」

 調査では、米国の成人2002人とAAASの会員3748人(同研究所によれば「専門的研究に従事する幅広い科学者の集団」)に対し、科学の成果、教育、そのほか賛否の分かれる問題への見方について、双方に同じ質問を行った。

 例えば、遺伝子組み換え食品や殺虫剤の安全性を肯定する人の割合は専門家と一般人で40ポイント以上も差が開いている。科学者の多くは、遺伝子組み換え食品は安全に食べられるという認識だ。人間活動と気候変動の関係、人類の進化についての考え方では30ポイント以上の隔たりが見られた。ワクチン接種、動物実験、石油の海洋掘削でもこれに近い差が現れた。

政治の道具になる科学

 「多くの科学上の問題が政治問題化されてきました」とミシガン大学のジョン・ミラー氏は語る。「今回の調査結果は、その事実を避けて通っているように思います。共和党はこれまで、宗教心が強く科学を敵視しがちな有権者から政治的に支持を得ようと、力を注いできたのです」

 1月29日に「アメリカ社会学評論」に掲載された研究結果も、この点を裏付ける。米国の成人の約5人に1人は非常に宗教心が強く、天文学、放射能、遺伝学を確立された科学として受け入れる一方、人類の進化とビッグバンには否定的であることが分かった。論文の筆頭著者であるエバンズビル大学のティモシー・オブライエン氏によれば、彼らは高収入・高学歴の「科学リテラシーのある」人々であり、科学を好意的にとらえている。ただ、聖書の文字通りの解釈と矛盾する場合には科学に背を向けるのだという。

 一方、根拠を示して見解を述べ、一般世論を動かすのは科学者の方が長けているとレシュナー氏は主張する。それには伝統的な講堂より、退職者の集まりや図書館での学習グループのような小規模な場の方が向いているという。「政治指導者が備える信頼性は、多くの情報を持つ科学者の信頼性とは別種のものです。科学者も同じ人間だと、一般の人々に分かってもらうことが重要なのです」

文=Dan Vergano/訳=高野夏美

  • このエントリーをはてなブックマークに追加